7月後半からFT8運用を開始。導入時のポイント・所感などを纏めておく。
<運用に至る背景>
●SSNのボトム期および夏場コンディションのため、遠距離、特にヨーロッパ、アフリカ、カリブ方面のコンディションが悪く、DXクラスターにスポットされる未交信のエンティティは、FT8ばかりの状況。。。
●追いかけていた1A0C(マルタ騎士団)は、14MHz CWで入感するもコールできる強さではなく結局逃してしまうが、FT8では多くの局がQSOできていた様子。
●FT8を始める上でのハードルは殆どなく、無線機とPCをUSBケーブル一本で接続しソフトウエアのインストールとPCのパラメータ設定のみ。免許は既に電波型式F1Dを受けており、また関東総通局において2018年3月に工事設計書における記載の簡略化が行われ、無線設備系統図にPCとの接続図と諸元表を追加した資料を提出すれば完了。
●「マウスクリックによる自動交信は、醍醐味に欠ける・・」と言った意見はあるものの「食わず嫌い」のままでいるのも惜しい。。。
<セッティング>
●無線機とPCの接続は、USBケーブル(A-Bタイプ)一本。当初、自宅にあった2mものと30cmものを継いで接続したが、後日、秋葉原で5mケーブルを購入。変調信号を無線機との間で授受するため、回り込み防止用に両端にフェライトコアを5回巻きで仕上げた。

●ソフトウエアは、DXペディションモードが搭載されているWSJT-X(v2.0.1)をダウンロードし、ネットの解説記事を参考にしてパラメータを設定。併せて、ログデータをHAM Logに転送できるようJT_Linker(v2018.08.08a)と、QSOの重複チェックが可能となるようJTAlertX(v2.14.1)をインストール(後日)した。
<ファーストインプレッション>
●バンドがオープンしている時は、さながらDXコンテストのようなひしめき合いーという印象。
●交信相手を探し、コールしてリターンを待つ−というQSOの流れ、なかなかリターンが得られずにやきもきしたり、コールバックがあった時やQSOに至らなかった時の一喜一憂は何ら変わりない。
●コールするタイミング(間合い)や、相手国・地域でのバンドの混み具合を想像しながら、どの辺りにTx Freqを設定してコールするかを考えるなど、FT8独自の工夫・知験が求められる。
●CWでは(微弱・高速の)モールス信号を聞き取ってコールサインを確認するーといった「先ず相手を確かめる」というプロセスが必要であるが、FT8では一切不要。即ち、コールサインを確認するための手間や間違ってしまう虞が無い分、とても効率的に交信を進められる。「相手が見える」とは、このことであり、FT8モード最大メリットのような気がする。
●約15秒に一度、入感(デコード)した局がリスト表示される。JTAlertXを用いると最大27局を同時に確認できるため、目当てのエンティティを探すのが便利。むしろ表示されている数秒間で相手を特定してコールするのはなかなか忙しい。また、Band Activity画面からは、どの地域でどの方面が開けているのかが一目瞭然。さながらDXクラスターの画面を見ながら相手を選んで交信している感覚。
●自動シーケンスでレポート交換される信号レベル(S/N +22dB〜-24dB)は、ほぼ実測値であり、Phone/CWのように定型レポート(59/599)を交換しないため、交信相手や他のJA局とのデコードレベルの差異から色々と推察できる。
●DXCCを追いかける手段としてFT8を用いる場合、Phone/CWと同様「耳の良さ」が最も重要。端的に言えばデコードできなければ何も始まらないということ。例えば、今年のトップシーズンは終了した50MHzのマルチホップDXでイタリア、ロシアそれぞれ一瞬だけデコードできたが、この時期でもヨーロッパと難なくQSOしている各局は、8エレ以上の構成が主流のようである。
●これまでPhone/CWでは、あまり聞こえなかったエンティティがFT8ではアクティブにQRVしている気がする。具体的には、CO(Cuba)、HB9(Swiss)、VU(India)、TA(Turkey)、ZS(South Africa)、VK6/8といったところ。既に5局以上交信できたところもある。
●ソフトウエアを用いたデータ通信のためかQSO終了後、LoTWへの反映が早く、またeQSL発行対応の局が多い。
<運用面の気づき>
●微弱なDX局を狙う場合、アンテナの僅かな向きで信号レベルやでデコードの可否が変わるため、ローテーターを頻繁に操作するようになった。
●受信しているDX局と同じシーケンスで強力局(+15〜+22dB)が現れると、DFが離れていても、そのDX局がデコードができなくなる場合がある。また、JTAlertXで見ているとデコードしている局数が減少する。強い局の影響で微弱なDX局がかき消される構造はPhoneの運用に近い。
対策としてAGCをFastとし時定数を最も早い設定(Level:1)としているが、AGCをオフにしてRFゲインを絞った方が有効となるケースが多い。どの程度までRFレベルを下げても微弱局がデコードできるのか(限界レベル)試したところ、Sメーターで10dB程度まで絞ってもデコード自体に影響は出なかった。結果として、FT8ではAFゲイン(ボリューム)よりもRFゲインを操作することが増えた。
●JAの強力局が送信するシーケンスの反対側や近いTx Freqではコールしないよう注意しているが、Newエンティティを狙っている場合でない限り、そもそもバンドを変えた方が賢明。あとDX局と交信中のJA局の後半シーケンスで、同じTx Freq、例えばオンフレで被せないよう注意が必要。DX側がQRMでデコードできなくなり迷惑がかかり、交信時間も延びてしまう。
●QSOの成立は、相手からの「RR73」「73」がデコードできていれば確実ではあるが、呼んだ相手から例えば「R-14」受信し、こちらから「RR73」を送信したタインミグで自動的に「Log QSO」ウインドウが立ち上がり、OKをクリックすればQSO成立と(こちら側では)記録されるが、相手にこちらの「RR73」がデコードできているとは限らない。特に微弱局には注意が必要。
●相手をコールする際、GL(QM05)から送るシーケンス(Tx1)を省略し、レポートから送るシーケンス(Tx2)が選択でき、交信時間の短縮となるが、この場合、先方からの最初のシーケンスは、例えば「R-8」であり、それを受けて次にこちらが「RR73」を送出すると先方からの最後のシーケンスは「73」となる。しかしながら、なぜかこの「73」が返ってこない(或いはデコードできない)ケースがあり、結果、手動で「RR73」を送り続けることになるため、かえって手間がかかる。Tx1からのシーケンスの方が順序として先方から「RR73」が返ってくるため、交信を確実にしたい場合、こちらを選ぶことが得策かもしれない。
●送信出力は、ある程度のS/N(-10dB以上など)でデコードできていれば、100W以上の出力は大差がない。また、交信相手と送受する信号レベル差が大きすぎると(相手に-16dBを送って、こちらには+00dBをもらうなど)気まずい感じはするが、信号レベル差は単に送信出力の違いとは限らず、また反対のケースもあるため、どの程度の出力が適正なのかはケースバイケースといったところ。
変調レベルについては、ALCを振らす・振らさないの議論があり、メーカーによってもALCに対する説明は多少異なる。微弱なDX局をコールする際は、ソフトウエアのPwrインジケーターを10段階のうち3レベルにしておき、無線機で15W程度でドライブをかけ出力250W程度にしていれば、信号レベルのバランスが取れている感じがする。